【実話】レガシーシステムから.NET Aspireへ - ある物流企業の挑戦と成功

プロローグ:金曜日の夜、また障害通知が...

2024年7月の暑い金曜日の夜。時計は午後9時を回り、私はようやく帰宅の途についていました。電車の中でスマートフォンが振動し、見慣れたアラートが画面に表示されます。

システム障害:在庫管理システム応答なし

またか...と思いながら、急いでノートPCを取り出します。VPN接続、リモートデスクトップ、古いWindows Server 2003の画面が表示されます。20年前に構築されたこのシステムは、今や月間1000万件の配送を管理する基幹システムとなっていました。

クライアントの課題:限界に達したレガシーシステム

株式会社ロジスティクスX(仮名)の状況

私たちのクライアントである株式会社ロジスティクスXは、全国に15の物流センターを持つ中堅物流企業です。2004年に導入したシステムは、当時としては先進的でしたが、20年の歳月を経て、様々な問題を抱えていました。

システムの現状:

  • Windows Server 2003 + SQL Server 2005(サポート終了)
  • ASP.NET Web Forms(.NET Framework 2.0)
  • 単一のモノリシックアプリケーション
  • 垂直スケーリングの限界(すでに最大スペックのサーバー)
  • 平均応答時間:5秒以上(ピーク時は30秒超)

「もう限界です」- IT部長の悲痛な叫び

「正直、もう限界なんです」

初回の打ち合わせで、IT部長の田中さん(仮名)は疲れ切った表情でそう語りました。

「毎週のように障害が発生し、その度に徹夜で対応。新機能の追加どころか、現状維持すら困難。でも、このシステムが止まれば、全国の配送がストップしてしまう...」

転機:.NET Aspireとの出会い

なぜ.NET Aspireを選んだのか

様々な選択肢を検討する中で、.NET Aspireに注目した理由は明確でした:

  1. 既存の.NET資産を活かせる - 20年間蓄積したビジネスロジックを段階的に移行可能
  2. 開発者の学習曲線が緩やか - 既存のC#開発者がすぐに開発開始できる
  3. ローカル開発環境の簡便性 - Docker Composeの複雑な設定が不要
  4. 組み込みの観測可能性 - 最初から監視・ログ・トレーシングが統合

「これなら、うちでもできるかもしれない」

技術検証のデモを見た開発チームの反応は予想以上でした。

「Docker Composeで苦労していたサービス間の接続が、こんなに簡単に...」 「ローカルでデバッグできるのは大きい。今までは本番環境でしか再現しない問題に悩まされていた」

移行プロジェクト:6ヶ月間の軌跡

Phase 1:パイロットプロジェクト(1-2ヶ月目)

最初のターゲットは「在庫照会機能」でした。比較的独立性が高く、読み取り専用のため、リスクが低いと判断しました。

// 旧システム:1つのメソッドで全てを処理
public DataTable GetInventory(string warehouseId, string productCode)
{
    string sql = @"
        SELECT * FROM Inventory 
        WHERE WarehouseID = @warehouseId 
        AND ProductCode LIKE '%' + @productCode + '%'";
    // SQLインジェクションの脆弱性も...
}

// 新システム:クリーンアーキテクチャで実装
public class InventoryService : IInventoryService
{
    private readonly IInventoryRepository _repository;
    private readonly IDistributedCache _cache;
    private readonly ILogger<InventoryService> _logger;

    public async Task<InventoryDto> GetInventoryAsync(
        string warehouseId, 
        string productCode)
    {
        var cacheKey = $"inventory:{warehouseId}:{productCode}";
        
        return await _cache.GetOrCreateAsync(cacheKey, async () =>
        {
            var inventory = await _repository.GetByWarehouseAndProductAsync(
                warehouseId, productCode);
            return inventory.ToDto();
        }, TimeSpan.FromMinutes(5));
    }
}

最初の成功体験

パイロットプロジェクトの結果は劇的でした:

  • 応答時間: 5秒 → 200ミリ秒(25倍高速化)
  • 同時接続数: 100 → 1000(10倍向上)
  • サーバーコスト: 月額30万円 → 月額8万円(73%削減)

「これは...本当にうちのシステムですか?」

田中部長の驚きの表情は今でも忘れられません。

Phase 2:段階的マイグレーション(3-5ヶ月目)

成功を確信した私たちは、Strangler Figパターンを使って段階的な移行を開始しました。

# API Gatewayでの段階的切り替え
apiVersion: networking.k8s.io/v1
kind: Ingress
metadata:
  name: logistics-gateway
spec:
  rules:
  - http:
      paths:
      # 新システムに移行済みのパス
      - path: /api/inventory
        backend:
          service:
            name: inventory-service
            port: 80
      - path: /api/shipping
        backend:
          service:
            name: shipping-service
            port: 80
      # レガシーシステムへのフォールバック
      - path: /
        backend:
          service:
            name: legacy-proxy
            port: 80

最大の危機:データ整合性の問題

4ヶ月目、大きな問題が発生しました。新旧システム間でデータの不整合が発生したのです。

「出荷指示が重複している!」 「在庫数が合わない!」

緊急ミーティングが開かれ、プロジェクト中止の声も上がりました。しかし、.NET Aspireの分散トレーシング機能が問題解決の鍵となりました。

// 問題のあったコード
public async Task ProcessShippingAsync(ShippingRequest request)
{
    // 新システムで処理
    await _newSystem.CreateShippingOrderAsync(request);
    
    // レガシーシステムに同期...のつもりが
    await _legacySync.SyncShippingAsync(request); // ここでタイムアウト
}

// 改善後:Sagaパターンで確実な同期を実現
public class ShippingSaga : IStateMachine<ShippingSagaState>
{
    public State Submitted { get; private set; }
    public State ProcessedInNew { get; private set; }
    public State SyncedToLegacy { get; private set; }
    public State Completed { get; private set; }
    public State Failed { get; private set; }

    // 各ステップで確実に状態を管理
}

Phase 3:完全移行(6ヶ月目)

最終的に、6ヶ月ですべての機能を移行することができました。

驚きの結果:数字が物語る成功

パフォーマンスの劇的改善

指標 移行前 移行後 改善率
平均応答時間 5.2秒 0.3秒 94%削減
ピーク時応答時間 32秒 1.2秒 96%削減
同時処理可能数 100件 5,000件 50倍
システム稼働率 98.2% 99.95% 大幅改善

コスト削減の実現

【移行前】
- サーバー費用: 月額120万円(物理サーバー4台)
- 保守人件費: 月額200万円(障害対応の残業代含む)
- 合計: 月額320万円

【移行後】
- クラウド費用: 月額45万円(Azure Container Apps)
- 保守人件費: 月額80万円(自動化により大幅削減)
- 合計: 月額125万円

年間コスト削減額: 2,340万円(61%削減)

開発生産性の向上

最も印象的だったのは、開発チームの変化でした。

「新機能の追加が1週間でできるようになった。以前は1ヶ月かかっていたのに」 「障害対応で徹夜することがなくなった。家族との時間が増えました」 「コードを書くのが楽しくなった」

技術的な学びと工夫

1. 観測可能性がすべての基盤

// カスタムメトリクスで業務KPIを可視化
public class BusinessMetrics
{
    private readonly Counter<long> _ordersProcessed;
    private readonly Histogram<double> _orderProcessingTime;
    private readonly Gauge<int> _pendingOrders;

    public void RecordOrderProcessed(Order order)
    {
        _ordersProcessed.Add(1, 
            new KeyValuePair<string, object?>("warehouse", order.WarehouseId),
            new KeyValuePair<string, object?>("priority", order.Priority));
            
        _orderProcessingTime.Record(
            order.ProcessingTime.TotalMilliseconds,
            new KeyValuePair<string, object?>("order_type", order.Type));
    }
}

2. レガシーシステムとの共存戦略

// Anti-Corruption Layerパターンで新旧の違いを吸収
public class LegacyInventoryAdapter : IInventoryRepository
{
    private readonly LegacyInventoryService _legacyService;
    private readonly IMapper _mapper;

    public async Task<Inventory> GetByIdAsync(string id)
    {
        // レガシーシステムのデータ構造を変換
        var legacyData = await _legacyService.GetInventoryData(id);
        return _mapper.Map<Inventory>(legacyData);
    }
}

3. 段階的な性能改善

// Feature Flagで新機能を段階的に有効化
if (await _featureFlags.IsEnabledAsync("UseRedisCache"))
{
    return await _cache.GetOrCreateAsync(key, factory);
}
else
{
    return await factory();
}

お客様の声:1年後のインタビュー

IT部長 田中さん

「正直、最初は半信半疑でした。20年物のシステムを本当に移行できるのか。でも、Enhancedさんのサポートと.NET Aspireの力で、想像以上の結果を得られました。何より、うちの開発チームが生き生きと働いているのが嬉しいです」

開発リーダー 山田さん

「.NET Aspireの学習曲線の緩やかさに助けられました。既存の.NETの知識を活かしながら、最新のクラウドネイティブ技術を習得できた。今では、新しい要求にも素早く対応できる自信があります」

経営層の評価

「IT投資のROIがこれほど明確に出たプロジェクトは初めてです。コスト削減だけでなく、ビジネスの俊敏性が格段に向上しました。競合他社に対する大きなアドバンテージを得られました」

エピローグ:新たな金曜日の夜

2025年6月、同じ金曜日の夜。私は定時で帰宅し、家族と夕食を楽しんでいます。スマートフォンは静かで、アラートは鳴りません。

ダッシュボードを確認すると、すべてのシステムは正常。自動スケーリングが需要の増加に対応し、エラー率は0.01%以下を維持しています。

「パパ、今日は早いね」

娘の言葉に、このプロジェクトの本当の価値を実感します。技術は人を幸せにするためにある。.NET Aspireは、それを可能にしてくれました。

まとめ:あなたの組織でも実現可能

この事例から学べること:

  1. レガシーシステムの移行は不可能ではない - 適切な戦略と技術選定で実現可能
  2. .NET Aspireは実戦で証明済み - 月間1000万件の処理に耐える堅牢性
  3. 段階的移行がリスクを最小化 - すべてを一度に変える必要はない
  4. 投資対効果は明確 - 年間2,340万円のコスト削減を実現
  5. 人の幸せが最終目標 - 技術は手段、目的は生産性と生活の質の向上

もし、あなたの組織でも同様の課題を抱えているなら、.NET Aspireという選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。私たちEnhancedは、その挑戦を全力でサポートします。


お問い合わせ: レガシーシステムのモダナイゼーションについてのご相談は、お問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

技術的な課題をお持ちですか専門チームがサポートします

記事でご紹介した技術や実装について、
より詳細なご相談やプロジェクトのサポートを承ります。